佐藤さん

 名利去り海鳴り告げよ冬鴎
 夢を見ました。いままで一度も夢に登場したことのない人です。
 彼女の名前は佐藤さん。下の名前を忘れました。かつてのわたしの教え子です。髪の長い色白の背の高い大人しい娘でした。丈の長いスカートを穿いていて、当初、スケ番グループのメンバーかと訝ったのですが、そんなことはありませんでした。
 …駅の構内を佐藤さんと歩いています。なにやらわたしも気持ちがうきうきしています。どうやら一緒にどこかへ出かける風なのです。構内は人でごったがえし、ぶつからないように注意しているうちに佐藤さんは、居なくなってしまいました。どうしたんだろう。わたしをおいて先に行ってしまったのかな。なんだ…。
 券売機でキップを買い、改札を抜け、電車を待っていると、「せんせ!」。佐藤さんです。急に視界が開けたようです。「あれっ。佐藤! どうしたの?」「ほら!」佐藤さんは、いたずらっぽい笑顔を見せ、くるっと回転して見せました。いつの間にか制服を脱ぎ、私服に着替えていました。「これならだいじょうぶ! さ、行きましょ」「……」腕までつないでいます。
 それから、どんなふうに場面が切り替わったのかわかりませんが、佐藤さんとは別れ、わたしは歩きながらケータイ電話で、相手の店主に『わしといたずらキルディーン』がいかにすばらしい本であるかを力説していました。仕事ですから口角泡を飛ばして一所懸命ですが、佐藤さんが居なくなったことをどこかで寂しく思っていて、その寂しさが、全身に貼り付いて剥がれることはありません。これからどの世界を見ても、その色が基調となるような予感がしました。
 荒海や色無し冬の出雲崎

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