本のうえの本

 全10巻の『新井奥邃著作集』が本棚にずらーっと並んでいて、そのうえに操体の名で一世を風靡した橋本敬三さんの『万病を治せる妙療法』が背文字をこちら向きにして積まれている。そのまたうえが谷川俊太郎さんの『「ん」まであるく』。
 谷川さんのこの本、今年が2007年だから21年前にわたしは買ったのだろう。初刷が1985年10月15日で第5刷が1986年9月1日とある。一年足らずで5刷だから、相当売れたのだろう。タイトルに惹かれて買ったように記憶している。ところが、読もう読もうと思いながら、とうとう読まずに今日まで、いや、昨日まで来た。そして、昨日、ふと、手に取り読み始めた。面白い。
 谷川さんの主に40代から50代にかけてのエッセイを集めたもので、今のわたしの年齢にかさなるから、そのこともあって興味を惹かれたのかもしれない。たとえばこんな文章がある。
「こんなむずかしい世の中で、自分ひとりいい顔をしてる人がいたら、その人はエゴイストなんじゃないかと思う。むしろ陰惨な顔をしてる人のほうが、信じられる。眼は血走り、下まぶたには脂肪をため、頬はそげ、時おり自分の顔を鏡で見て、ぎょっとすることがある。だが鏡ではなく他人にむかうと、そんな顔でも和むものである。他人の顔を見ていることで、きっと私は孤独から救われているのだろう。」タイトルは「自分の顔」。

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