おみそれしました

 ある夜、小料理千成で食事をし、勘定を払って店を出ようとしたとき、他のお客が金目鯛の煮付を食べていたのを見、つい、「今度は金目鯛の煮付を食べよう」と、つぶやいていた。小声だったから誰にも気付かれないと思ったが、少し恥ずかしかった。
 次に店に行ったとき、いつもなら、わたしの顔を見るなり旬の魚を焼き始めるご主人のかっちゃんが、そうしない。おや? と思い、もしや、と思った。
 だまって見ていると、昨年結婚し、ときどき店を手伝いに来ている長男のお嫁さんに、「それ、三浦さんに」と指示した。やっぱり。おみそれしました。口から洩れたつぶやきの一言を耳にし憶えていてくれて、さっと出してくれるところなんかは、さすが、保土ヶ谷に小料理千成ありと謳われただけのことはある。美味しゅうございました。

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