真の字

 中国人は、ゆっくりした呼吸の理想的な状態を「胎息」という。胎児のように、ヘソの緒から酸素をうけるわけだ。母体回帰願望ともいえるが、長生きの秘密が無限に死者に近づくこと、呼吸を長くしていってついにはしなくていいまでになるというのは面白い逆説だ。『荘子』にはとくにそうしたニュアンスが濃い。「凡人は鼻で呼吸し、真人はカカトで呼吸する」とあるのも、「気」を吸収してカカトにまでめぐらす術を言っているのだが、「真」とは人の首が逆さにかけられている文字で、荘子がはじめて使った真人というのは「死をわがものとした人」というような意味があったらしい。(津村喬『新編 しなやかな心とからだ』)

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