山と谷

 「仙」とは「俗」の反対語である。谷に人が住むと書いて「俗」になる。山に人がいてそれが「仙」である。谷に住む者は視野も限られ、活動領域もせまくて自分の生命をはてしなく充実させひろげていくということができない。山人とは脱領域の人であり、カルマ(業、突如インド哲学をもちだしたりしてズサンで申しわけないが)を解脱した人である。飛行術というのがあって、飛んでいる仙人が川で洗濯する娘の白いすねを見て術がやぶれ墜落したなどという話もあるが、これなども「仙人ぶり」への民衆の皮肉な批評であるとともに、「自分の場所」を脱出してどこかへとんでいきたいという熱烈な想いが生みだしたイメージにはちがいない。(津村喬『新編 しなやかな心とからだ』)

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