フジツボ

 ひと月ほど前から、近くの歯医者へ行き、数回、歯と歯茎のあいだのポケットにある歯石を除去してもらっている。ふつうの歯石なら、ギーンと鳴る例の機械でやれば短時間で済むのだが、ポケットの中となると、そうはいかない。
 先の尖った曲がった針状のものでガリガリガリガリやる。かなり痛い。最初の回が終わったとき、担当してくれた歯科衛生士の若い女性に、「ずいぶんガリガリやるもんなんですね」と言ったら、間髪入れずに、「はい。岩にへばりついているフジツボのようなものですから、ちょっとやそっとでは取れないんです」と、巧みな比喩を交え明解に答えてくれた。「フジツボ、ですか」「はい。フジツボ。何か…?」「いえ。喩えが的確だなと思ったものですから…」。若い歯科衛生士は、もう、わたしの感想には取り合わずに、「今日は左の上半分をやりました。次回は右の上半分をやります」とだけ言った。「はい。ありがとうございました」
 フジツボねぇ。ガリガリやられて歯が浮くような感じがし、歯と歯茎のあいだに住むというフジツボを思い浮かべた。