メボス?

 『日本の英語辞書と編纂者』の著者・早川勇氏の次の書『英語になった日本語』(仮題)の校正・校閲を進めているが、日本語の語彙が英語に取り入れられていく過程が著者の想像・仮説も含めて物語風に説かれており、つい、仕事の手を止め読んでしまう。
 mebosという単語がOED(Oxford English Dictionary)に入っているそうだ。その説明によれば、十八世紀の英語文献に初めてmebosが現れるが、語源的にはアフリカーンス語(南アフリカ共和国で用いられる公用オランダ語で、十七世紀のオランダ人移住者の話し言葉から発達した言語)ということになっているという。mebosがどんな食べ物か、OEDの記述を著者は引用しているが、日本の梅干に酷似している。
 歴史的に考えてみて、当時、オランダ東インド会社がアジア地域で活躍しており、その支店が日本にも出来ている。オランダ商館と呼ばれた。おそらく、と著者は言う。アフリカに梅干を持ち込んだのはオランダ商人であろう。語頭の母音が脱落することは言語の世界ではよく起きる現象だそうだ。そうすると、権威ある英語辞書として夙に有名なOEDは、ことがらの半分を説明しているが、残り半分は置き去りにしたままということになるではないか。へ〜。知らなかった。