ピーピング・マシン

 写真家の目はピーピング・マシンだ、と橋本さんは言う。ピープは覗き見る。
 橋本さんは宮城県石巻市出身。石巻はかつて(今も?)全国的に名の知れた港町であり、そこでは出逢いと別れのドラマが日々繰り返されていた。男と女。未だカメラを持たぬ橋本少年は、好奇のうずきをカメラとし、二人が寄り添い暗がりに入っていくのを追いかける。なにが起きるのか。なにをするのか。藪の中であちこち蚊に食われ痒みをこらえながらも一心に、そこで繰り広げられる一部始終を少年は見逃さなかった。今風に言うなら、橋本は見た!
 写真集『北上川』は、ローカルな写真群を収めたものなのに版を重ね三刷まで来ている。石巻と何らか縁のある人々が多く買ってくださった。しかし、それだけではこんなに反響を呼ぶことはなかっただろう。
 写真集の懐かしい光景に触れ、パッと明かりが灯る。薄暗い中でものも言わずに立っているのは子供の自分だと気付く。外だけではない諸々を思い出しながら、そこに好奇の少年の目を感じることで、読者もまた、いよいよ自分の中の幼い魂をよみがえらせ、生き生きと動き回る快感に酔い痴れているのではないかと想像する。世界は総天然色。音を立てて過ぎ去った。