父の仕事ぶり

 最近の農家は、所有する田んぼを手放さず、作業を請け負いで依頼することが多くなっているようだ。父は齢七十を過ぎているが、自分の田んぼだけでなく、頼まれれば機械を使い、出掛けて行ってそれぞれの作業をこなす。もちろん無償というわけではない。一つの仕事がいくらいくらと、だいたい相場が決まっているらしい。父の仕事はていねいで通り、近所で評判になっている。
 ゴールデン・ウィークに帰省した折、集まった親戚のものたちとテーブルを囲み団欒していたときだ。背の高い男性が訪ねてきて、父が応対に出た。「そんなことしてくれなくてもいいのに…」という父の言葉が聞こえる。客が帰った後、戻ってきた父が見せてくれたものは結構な数の魚だった。
 支払いはとっくに済んでいるのに、世話になっているというのでわざわざ持ってきてくれたそうだ。興味がわいたので、父にどんな仕事ぶりなのか尋ねてみた。
 父は例をあげて説明してくれた。
 言わずもがなのことながら、ほとんどの田んぼの形は四角い。四角い田んぼに機械を入れて作業するときに難しいのは四つの角。自動車と同じで農業機械も直角には曲がれない。だから、ほとんどの請け負い人のする仕事は角が残る。角が残ることは頼むほうも頼まれるほうも了解しているから、その仕事に対する料金は変わらない。ところが父の場合、少し違う。前方に向かい機械を運転している限り、角はどうしても残る。そこで父は一計を案じ、角を曲がった後、今度は機械を角のギリギリまでバックさせ、残った角の部分が極力少なくなるように配慮する。土に対して働きかける器具は機械の後ろに付いていることがほとんどだから、そうすることによって、仕事を依頼した側が手作業でしなければならない範囲がほんの少し残るだけになる。仕事は依頼しても、元々は農業を知っている者たちだから、父がどんな仕事ぶりをするのかは一目瞭然。いただいた魚が何の種類だったか忘れてしまったが、そういう意味のある魚だった。