六歳

 曇天の下を歩きながらすれ違う人、先を歩く人や横断歩道をいま急いで渡った人を見ると、だれもみな大人に見える。電車の吊革につかまり細くたたんだ新聞を読むサラリーマンも、母親に連れ添う子供も大人で、六歳のぼくは動くモノクロ写真を見るようにして息をひそめているのだ。こんなことはずうっとずうっと以前に経験し、それから立派な大人(立派でなくてもいいから大人)になるために言葉を覚え、おぼつかないながらも使い始め、使いこなしてきた(と思っていた)のに、いともたやすく剥がれ落ち、不思議と驚きの前で立ちすくむ。
「まいどー」
 宅配便の青年が威勢のいい声と共にドアを開け入ってくる。ハッと目が覚めるようにして、色がついた。