黒糖梅飴

 こくとううめあめ、とでも読むのだろうか。一個ずつ小さなかわいい袋に包装されてあり、それが100グラム単位で大き目の袋に入り商品として売られている。「甘酸っぱい梅と黒糖で仕上げた飴。」と袋に書いてある。
 年末から正月にかけて秋田に帰省した折、親はありがたいもので、みかん食べない? 煎餅食べない? お団子食べない? 牛乳飲む? チオビタ飲む? 食べない? 飲まない? と、次から次、持ちかけてくる。ぼくは、あまり間食をしないほうだから、「いらない」「いらない」の繰り返し。ちょっと、そっけなさ過ぎるかなと思いながら、やっぱり食べないし飲まない。
 秋田は、今年何十年ぶりかの豪雪で、新幹線「こまち」が正月5日は終日運休、父が運転し母が助手席に座るクルマで秋田駅まで送ってもらったのに、結局、横浜に戻るのを一日伸ばすしかなかった。「おかげで、一日ながく居られることになったから、よかったかな」「そうね」。たわいもない話をしながら、来た道をまた逆戻り。途中、豪雪にもめげず開いている回転寿司屋に入り、三人並んで寿司を食べた。わたしの左隣りが母、その隣りが父。三人とも寿司が好物で、秋田に帰る度、その店に寄っている。
 翌日、まるっきり前日と同じようにして父の運転するクルマで秋田駅に向かう。助手席に母が座り、わたしは後部座席。発車後間もなく、母が、「これ、おいしいから食べてごらん」と言って、かわいい袋に入った飴を渡してくれた。こばむのもどうかと思って、今回ばかりは、もらって食べた。母は、もう一つ小さな袋を破り、運転中の父の口中へも放りこんだ。
 飴が口の中でゆっくり溶けてゆく。まろやかな甘さとほんの少しの酸っぱさがうまくミックスされ、なかなか美味しい。ガリッと音を立てたのは父。「どうも最後まで舐めていられないんだ」と恐縮している。わたしは最後まで舐めて終わった。一個全部が溶けてしまったので、前に座っている母に、「もう一個ある?」。母は、小さなかわいい袋を黙って差し出した。
 横浜に着いて1週間が経った頃、父に頼んでおいた米が宅配便で届いた。ダンボールを開けると、一番上に、見覚えのある袋が三つも入っている。黒糖梅飴。間食をしないわたしが珍しくねだったものだから、息子の口に合ったと思って入れてくれたのだろう。
 米が届いたことを知らせる電話をかけた時、飴の袋が入っていたことを母に尋ねたら、近所の店には売っていないらしく、父に頼み、わざわざクルマを出してもらい、飴を売っているスーパーマーケットに行って3袋買い、米といっしょに送ってくれたものらしい。
 一人で食べたら2ヶ月は持ちそうだから、会社に持っていき社員にお裾分け。「美味しいですね」と言って皆、喜んでくれた。