設定は大事

 ウォーキングが趣味になって、出歩くことがあまり苦でならなくなった。専務イシバシや武家屋敷をつかまえては「万歩計買いなよ。歩数だけでなく、歩いた距離、消費カロリー、時計まで付いてんだぜ」と薦めている。
 さっそくイシバシがとても立派なのを買ってきた。おいらのが2千円ちょいぐらいなのに、4千円以上するやつを。見るからに高そう。身に着けなくても、ハンドバッグの中に入れて歩いてもいいそうだ。便利。なのにイシバシ浮かぬ顔をしている。訊けば、高価なだけに、歩数、歩行距離、消費カロリーどころか、体内脂肪がどうだとかコレステロールがどうだとかBMI値がどうだとか、やたらと設定が面倒らしい。分かる分かる。よ〜っく分かる。便利な機械というのはそれが面倒臭いのよ。簡単ケータイ電話が売れる所以がここにある。
 実はわたしの万歩計も、ついこの間まで設定が違っていた。というか、買ったまま、ただ電池を入れて腰につけ、ときどき開けてみて、なんだまだ千歩かよ、なんてやっていた(猿みたい)のだが、感覚的にどうも歩行距離が短いような気がしてならない。人間らしく取扱説明書をていねいに見てみたら、初期設定が一歩50センチと書いてある。男の一歩が50センチであるわけがない。「使う前に設定してください」とちゃんと書いてあるではないか。読まずに使ったわたしが馬鹿だった。
 設定し直して我が家から会社まで歩いたら、3.3キロあった。納得。感覚的にだいたいそれぐらいだろうとの予測とぴたり一致。ことほど左様に、わたしは機械音痴、原始的感覚人間なんである。
 いま会社で使っている一体型のオーディオのピックアップが故障したのをそれと知らずに、CDの真ん中の穴が小さいせいかと思って包丁で穴をグリグリ広げ、若頭ナイトウに呆れられたことが懐かしい。「CDの穴を包丁で広げた人をわたしは初めて見ました。というか、穴を広げたら音が出るのではという発想自体がとても珍しいと思います」と、違う生き物を見るような目でおいらを見ていたっけ。