旅はつづく

 引き続き写真集『北上川』の編集。収録する写真と順番がほぼ決まり、コピーを床いっぱいにずらり並べてみる。撮った橋本さんがそれをじっと見、感嘆の声を上げる。自分が撮ったはずのに、時間によって浄化された写真群が撮影者の意図を超えて独自の世界を垣間見せてくれているからだろう。一級の私小説を読んだときにも似て、濃密な生活と時間をくぐった後のさわやかな気分に浸れる。映画でいったら小津安二郎のもの、近いところではソクーロフの傑作ドキュメンタリー映画『マリヤ』を彷彿とさせる。
 橋本さんにスポットを当てた90分のドキュメンタリー番組『北の大河〜もうひとつの北上川物語』が日本民間放送連盟主催の番組コンクール(東北・北海道ブロック全36局)で銅賞を受賞し、テレビ朝日系列24局で全国放送(30分枠)も決まったが、テレビと合わせて見ることで写真集の面白さがいっそう引き立つだろう。
 大河の源泉からちょろちょろ流れ出す北上川をりかちゃんという名の女児がまたぐ写真がある。北上川をまたぐ? そう、またいだ。全長249キロの大河も始まりは堰にも及ばない。北上川の全貌が、風土と暮しを横軸に、時間を縦軸にして今はじめて明らかになる。