巨大なバッタが会社のベランダにいた。頭が痛い。じっとしていて最初は生きているのか死んでいるのか分からない。不二家のペコちゃん人形を横に倒したぐらいはあるそのバッタは、生きていることを証しするかのようにギザギザの前脚を動かした。こっちを見ているようでもあり見ていないようでもある。心理を読めない顔つきだ。でも圧倒的な存在感はウシガエルに劣らない。そのうちに社員が何、何、何、何、え、何、と言って次つぎベランダに出てきた。恐れおののきながら凝視しているわれわれをよそにバッタはヘリコプターのようなとんでもない音をさせ飛び立ち、道路を挟んで立つ職業訓練校の二階の窓に近づいて、あわやぶつかるかと思った瞬間、斜めに急転回、あの透き通った緑の羽をまがまがしく広げ伊勢山皇大神宮の森に吸い込まれていった。緑色のスカスカの羽を通して太陽の光が見えた気がして、連想がタタミイワシに飛んだのは気象のせいでもあるかと思われ、深呼吸し部屋に戻った。いつ戻ったのか、みんな前と同じ格好で仕事をしている。いつかどこかで見たことのあるシーン。頭が痛い。これからきっとだれか人がやってくる。「こんにちはー。○○○ですぅ」ほらね。緑と白の制服姿のおねえさんは肩にかけたバッグを床に下ろして膝を付き「今日はいかがですかぁ」と少し高音で言った。いつものように、社員が自分の好みのドリンクを買い、おねえさんは普通に腰を上げた。背中に羽が生えていないか探っていたらおねえさんと眼が合った。高音で「ありがとうございましたー」と言ってそそくさと帰っていった。飛ぶのか。見るのを我慢する。頭は割れ鐘を突いたように痛い。