詩と飛行機

 小社から『鮎川信夫と「新領土」』(?)(?)の刊行を予定している中井晨さんと装丁家の山本美智代さん来社。つぎつぎと繰り出されるお話、いまこの瞬間に立ち昇ってくるような趣で、おもしろかったぁ。時間を忘れてお話をうかがい、聞き上手のお二人に促されるようにして、わたしもなんだか色々おしゃべりをしてしまいました。お二人は高校の同窓生。昨年『磁力と重力の発見』で大仏次郎賞を受賞し時の人となった山本義隆氏と美智代さんはご夫婦。
 紀要に発表された中井さんの文章を読んで以来、一読、わたしは先生のファンになり、しっかりした歴史書を読む醍醐味を味わわせてもらっている。先生のお人柄もあるのだろう、うがった見方で歴史をバッサリ切るようなものとは対極の、資料そのものに語らせる体の文章で、言うに安く行うに困難な記述のあり方だ。注が充実している。それを丹念に読むことがまたこの本のおもしろさをいっそう引き立たせてくれる。歴史と社会の重層性を感じ考えずにはいられない。
 山本さんは渡された紀要を読み「詩と飛行機」という言葉に思い至ったという。飛行機は二十世紀を象徴するもの。最近再読されたサン・テグジュペリの『星の王子さま』についての感想をお話しされた。若いときに読んだのとはまた違った印象で、物語と言葉の一つ一つが胸に染みたという。今の時代における言葉の持つ意味、詩の重要性を改めて感得されたようだ。
 仕事の打ち合わせも済み、保土ヶ谷の小料理千成へ。お二人ともお酒を嗜まれる。リラックスした雰囲気でさらに取っておきたくなるような面白い逸話が次から次、わたしもイシバシも大満足。縁の不思議に打たれた夜だった。