おびえ

 子供の頃、母の実家に遊びに行くと、夜、日本家屋の奥の座敷に布団を敷き、父、わたし、母と川の字になって寝たものだ。まだ小さかった弟は母に抱かれていたのかもしれない。はっきりとは憶えていない。寝床が変わって少し緊張しながら、わたしは胸に両手を当てて目を見開いていた。天井板の木目を睨んでいるうちにミル貝の足のようにも見えるその模様が微妙に変容するようで眼を疑った。横を見れば父は薄いいびきをかいてすでに眠りに入っていくようなのだ。枕に乗せた頭をずらし、ふすまの上の彫り物に目をやれば、恐ろしい虎がこちらを睨んでいて、わたしはゾッとし、思わず、カアサン、と小声で呼びかけた。母は呼吸のリズムをほんのちょっと崩しただけで、またスースーとリズミカルな寝息をたてた。わたしは頭を元の位置に戻し、真上の天井を見遣りながらこんなことを考えていた。天井板を剥がし、屋根を剥がしたならば、四人はいま無辺の宇宙の下に横たわっていると。めまいがするような気がしてうろたえた。くるくるくるくるくるくるくるくる、四次元の闇はさらに冴え冴えとしていくようだった。