美しい書類

 書類に美しさがあるかと思われる向きもあろうが、わたしはあると思う。それは何で決まるかといえば、ハンコの捺し方。捺すべきところに真っ直ぐにシャキッ! と滲ませずに捺す。シルクロードの研究家にして香港大学で教鞭をとっておられるM先生からかつていただいた中国製の印泥をつかっているので、しるしがにじまない。が、相当強く捺さないとシャキッ! と出ない。
 片足が持ち上がるほど強く捺し、ハーハー息を切らせているわたしを見、「シャチョー、そんなに強く捺さなくても…」と若頭ナイトウ。「ん? ほれ、どうだ。美しいだろう。真っ直ぐだろう」満足!!
 取るに足らないことのようだが、こういうことをわたしは若い人に伝えたいと常日頃から思ってきた。美しい書類のほかにもう一つこだわっているのが、美しい包装。きちんと固く、皺が寄らぬよう角角が直角になるように包む。ゲラを包むのはだいたいにおいてコピー用紙の包装紙をつかうが、コピー用紙が包まれていたときよりも固く包む。これが社訓。わが社ではこれを励行している。この部門においても、わたしがダントツだと思っていたが、たがおの固さにはかなわない。鉄のかたまりのような固さに包装する技術をいつのまにか会得していた。ふむ。見事じゃ!!
 思い出した。もう一つ。紙をカッターナイフで切るとき。切る、と思ってはいけない。あくまでも、なでる。物差しを当てカッターナイフで紙を数回なでる。そうすると切り口が実になめらかでシャープなものになる。ナイフが物差しの山を越えることもない。見事じゃ!!