湖愁

 松島アキラのヒットソング。シングルレコードが昭和36年発売だそうだから、わたしはすでに生まれていて、父や叔父を真似て三橋美智也のものなどを歌っていた頃だ。
 「湖愁」がそんなにヒットしたのなら、当時わたしの耳にも入っていてよさそうなものだが、トンと記憶にない。昭和36年といえば、家にまだテレビが入っておらず、ひょっとして父や叔父の好みに合わず口ずさむことがなく、それで、知らずにきてしまったのかもしれない。いい歌だなあと思ったのは、コットンクラブに来るKさんやIさんが歌っていたからだ。
 ゆっくりと物静かに始まる曲は「かわいあの娘よ さようなら」で切なさの極をむかえる。失恋の歌だ。歌謡曲っていいなあと思う。あたりまえだが、KさんとIさんではそれぞれ歌い方が異なる。それぞれ味がある。声も、Kさんのそれは歌手で言ったら守屋浩にちかく、Iさんのそれは橋幸夫にちかい。Kさんが歌えばKさんの「湖愁」だしIさんが歌えばIさんの「湖愁」だ。同じ歌でもおのずとニュアンスが違う。それを聴き分けるのもたのしい。おふたりとも十代の頃だろうから、思い出と重ね合わせて歌っておられるのかもしれない。
 自分がくぐってきた時間なのに、ちょっとした掛け違いで今まで知らなかった。こういうことがたくさんあるのだろう。