恒例

 正月2日は、親戚一同が我が家に集まり、おせち料理を食べながらカラオケに興じるのが最近の習いとなっている。
 腰の痛い母を助け、わたしが蟹玉と回鍋肉と海老餃子をつくった。田舎のこととて、普段食べなれないらしく、皆、喜んでくれた。男鹿の叔父は例によってブリカマをどっさり煮付けてきてくれた。叔父は数年ごとにいろいろなものに懲る性格で、ある時は習字、ある時は盆栽、ある時は果実酒、そして今はカラオケとブリカマだ。
 カラオケは今流行りのマイクに、歌の入った薄いチップを挿入する式のもので、叔父はわたしが帰る前になると必ず電話をしてきて、この頃歌っている歌は何かと訊いてくる。1曲2曲はだめで、5曲ほど所望されるから結構苦しい。そんなに新しい歌ばかり覚えていられない。仕方がないから、古い歌でまだ皆の前で披露していない歌のタイトルを告げる。叔父はこちらが希望した歌をメモし、業者に新しいチップを頼むらしいのだ。叔父は、収録曲のリストを綴った自前のカラオケ本まで用意して持ってくる。表紙まで付けて! 几帳面な叔父の面目躍如。
 身内のことを褒めるのはどうかとも思うが、とにかく皆歌が上手い。五城目の叔父は、いつもは少々酔っ払いすぎて本来の上手さが出ないのだが、今回の「山のけむり」は格別。春五月、祖母が山菜を採りに入って行く山々が目に浮かぶほど出色の出来だった。
 歌手になりたくて東京に出たことがあったという話を何度か叔父から聞いたことがある。父からも同じ話を聞いたから、本当なのだろう。
 わたしもカラオケが好きで、相当カネも注ぎ込んでいるが、弟にはどうしても敵わない。弟はいつも自信たっぷりに歌う。

人間

 新幹線こまち号にて14時02分秋田駅着。5分の遅れ。
 いつものように父と母が迎えに来ていた。夏と冬にしか帰らぬせいか、年々若者の身長が伸び、それとの対比のせいか、改札を抜け、サッと手を上げ合図を送ってよこす二人の印象が、帰るたびに少し縮んでいくようで、さびしい気がする。父はますます亡くなった祖母に似てきた。血は争えない。
 父がクルマを運転し、母が助手席。これもいつも通り。わたしは後部座席。飯島の回転寿司店にて遅い昼食。わたしは適当に回っているものを取ったり、カウンターに貼ってあるメニューを見て、中の板前に頼んで好みのネタを握ってもらう。それぞれが5、6枚食べた頃、だれも頼まないのに、甘エビが3枚さっと出てきた。母のほうを見ると、悪戯っぽい眼をしてニコニコしている。
 勘定を父が払い、外へ出ると、母が、来ると必ず甘エビを頼むことを知っている板前が、甘エビを食べないうちは帰らないだろうと思って出したのさ、と笑った。そんなこともあるまいよ、と、父が言う。
 それからまたクルマに乗って、途中、最近出来たばかりの郊外型(って、どこに作っても秋田の場合、いずれ郊外型なわけだが)の大きなスーパーマーケットに寄って正月客用料理の材料を買う。帰ったときぐらいは母を手伝うつもりで、わたしが料理しやすいものに。
 夜、母が用意してくれた料理を肴に父とビールで乾杯。よく来たな。うん。
 父は前みたいに、いつになったら秋田に戻ってくるつもりかとは訊かなくなった。この頃は、せっかくふるさとがあるのだから、15年20年経ったら帰ってくればいいじゃないかと、随分語気が和らぎ、詰問調から懇願調へ変化している。「人間到る処青山あり」の気概で、骨を埋めるのはどこだって構わないと息巻いてきたが、いつまで生きられるわけはなく、そんなに気張る必要もないなと思い始めている。
 年末、コットンママが貸してくれた呉智英『言葉の常備薬』に、上に引いた僧月性の詩のことが載っていた。「人間」は「ニンゲン」でなく「ジンカン」と読むべきで、この世、の意味と解説されている。漢籍では「ジンカン」と読む。もっとも仏典では読みは「ニンゲン」でも「ジンカン」同様、この世、の意味であったのが、現代の日本ではヒトの意味に転化したのだという。
 危ない危ない、知ったかぶりして喋らなくってよかったよ。青山が骨を埋めるところの意とは知っていたが…。青山がどこにあろうと勉強を怠ってはいけないということか。

旭日

 明けましておめでとうございます。さて、明けてこの2005年、まず、創業の年に始まった『新井奥邃著作集』最終巻刊行の年であることを改めて肝に銘じたい。収録予定の「聖書との対照表」「キーワード索引」は共に、今後、新井奥邃研究を進める上で大きな土台石となるだろう。この二つを作るために、これまでの巻があったとも言える。こころしてかかりたい。
 会社は既に6年目に突入しており、いつまでも初心者然としているわけにはいかなくなった。手を上げて「こんな人たちが本を作ってまーす」と叫んできたけれど、そろそろ、くるりと後ろへ回り、本そのものを大海へ押し出す時期に来ているのだろう。勉強すべきは勉強し、きめ細かい仕事をしたい。
 と、気張って始まりましたが、ひとも会社もやっぱり面白いや。生きている。ということは、変化する。関係の中で変化していく。それが実感できることが面白い。昨日飲みに行った居酒屋「だんらん」のマスターに、正月はいつからの営業ですかと尋ねたら、3日から、とのこと。頑張りますねえというと、好きでなければ出来ません…。まったく。でも、今日の日ぐらいは仕事に感謝する時間とし、骨休めしよう。ね、マスター。
 では、これから秋田へ行ってきます。
 お、朝日が昇ってきた。すげーすげー! きれー!! 屋根は雪。