出づっぱり

 新宿中村屋11時に高齢者向け英語本の企画で待ち合わせするも、イシバシなかなか現れず、おまえいい加減にしろよ、おれはまだ二人の先生共にお目にかかったことねーのだし、おまえが来なけりゃ話にならねーじゃねえかとヤキモキしていたら、「三浦さんですか」と妙齢の美しい女性に声を掛けられ「はい、そうですが」と声を裏返し返事をしたら、「石橋様からただいま携帯電話に連絡が入りまして、入口で坊主頭の男がぽつねんと立っているはずですからと申しておりました。どうぞこちらへ」と招かれ、二人の先生に改めて挨拶し、と、間もなくイシバシ登場、企画の主旨、市場性などについて話し合い、即決ゴー、中心になる先生が今週金曜日来社することになった。では、金曜日お待ちしています、で、新宿中村屋を後にし電車で水道橋へ向かう。お世話になっているながらみ書房へ2時に訪問する約束で、まだ少し時間があるからと、イシバシ、会社へ電話を入れ、今日開かれる平沢豊写真展会場、台場のホテル、グランパシフィックメリディアン3Fへ花をセットしてくれるよう総務イトウへ伝言、それからイシバシへOという方から電話が欲しいとの連絡が入ったらしく、イシバシ、そこへも電話を入れる。電話が済んで、ながらみ書房へ行く前に腹ごしらえをしといたほうがよかろうじゃねーかということで、地下の定食屋へ入り、ふたり同じ豚の味噌焼き定食を頼んだら、予想以上に豪勢な料理に舌なめずりして挑むも、チクショー、肝心かなめの豚の味噌焼きが、味付けはともかくとして肉そのものが硬すぎる、なんだこの肉コンクリか、硬くて噛みきれるもんじゃねー、と、文句を言ってもしょーがねーから我慢して食った。それから食堂を出てながらみ書房へ。及川社長と親しく話し、「短歌往来」4冊と社長の最新歌集『秘鑰』をいただく。年が明けたら相談したい旨の有難い話も頂戴し気合が入り、では、あまりお邪魔してもいけませんからそろそろお暇いたします、と挨拶をし立ちあがる。あら社長、この辺り随分綺麗になりましたね、先日お邪魔したときはもっといろいろ荷物があって…とイシバシ余計なことをいうから、馬鹿、おまえ、そんなこと言うもんじゃねー、褒め言葉になってねーじゃねーかなど言いながら辞去する。さて今度は東京理科大、飯田橋飯田橋と、そうか、隣りの駅か。飯田橋駅2時半着、おお、あのデカいビルが東京理科大、書いてあるよ、近いな。エレベーターで16階へ。約束の時間より数分早かったので窓辺にたたずみ外の景色を眺めていたら、先生から声を掛けられ共同研究室にてさっそく企画の相談。アメリカ発最新の応用行動分析学を研究してこられた先生の話に興味が尽きず時を忘れる。話がまとまり、来年1月末までに総論を書いて送ってもらうことにする。話を聞いているうちにちょびっと頭がよくなった気がして気分爽快、先生、エレベーターのところまで送ってくださり、今度横浜の方へぜひいらしてください、それでは、で、ズイ〜ンと地上へ降り、外へ出たらもう真っ暗。イシバシ、近くのATMでカネを下ろし、お待たせしました、いやなに、気にするな、よし、えーと、次は新橋。写真家の橋本照嵩とゆりかもめの改札で6時の待ち合わせだな。と、タイミングよく橋本氏から電話が入る。おう、橋本さん、いま飯田橋だよ、これから新橋に向かうところさ、橋本さんは今どこさ。え、新宿、あ、そう、じゃあ、ゆりかもめの改札で待っているからね、ピ!(ケイタイを切った音)。ゆりかもめの改札口っていったって二つあるじゃねえか。どっちなんだよ、東口、西口、橋本さん、宮城県出身だから東口かよ、根拠薄いな、とりあえず西口の方へエスカレーターで上り状況把握、イシバシを誘い、今度はエスカレーターを降り東口へ、東と西の口で何の変りばえもしない。も一度エスカレーターで降りながら、イシバシさんよ、橋本さんがくるまでエスカレーターを上り下りして何度目で来るか賭けないかと言うも、イシバシ無言、付き合ってもらえない。東口と西口へ分かれる踊り場で待つこと数分、橋本氏現る。三人ゆりかもめに乗り、揺られ、夜の東京ビューをしばし楽しむ。台場6時半着、駅前の豪華なホテル、グランパシフィックメリディアン3Fへ。イシバシ、2階の花屋で花の御代を済ませ、さていよいよ会場のギャラリー・ヴァンテアン。平沢さん、入口にひょいと立っていた。ギャラリーは円形で、外壁にはヨーロッパの各都市で撮った写真と「木」のシリーズ。橋本さんの「叢」の一連の写真がぼくの「木」に影響しているかもしれないと言っていたのはこのことか。木も都市も全共闘も静かな印象で、語弊があるかもしれないが憂いを帯びているとも思った。主催者であるクレー・インクの太田菜穂子さんは挨拶文で「秩序」という言葉をつかっておられた。秩序か、そうね、秩序。7時からパーティーがはじまる。中央大学の中沢新一先生が講談社の女性編集者と現れたので、挨拶をし、橋本さんを紹介、来年、ウチから『瞽女』の写真集を出すことを伝える。「長田は今日は来ていないのですか」。長田とはたがおのことで、「はい、年末で仕掛かりの仕事が忙しく今日は来ていません」。たがおは中沢先生の教え子。会場はやはりどことなくフランスしていて、なぜか黒の服装が多い。橋本さん、黒が多くて写真撮りづらいなあといいながらもシャッターを切りつづける。予定の8時半を過ぎ、主催者の太田さんから短いが印象深い挨拶があってお開き。平沢さんと太田さんに挨拶をし、またまたゆりかもめに揺られ新橋に着いたときには9時を回っていた。地下へ降り横須賀線に乗って一路保土ヶ谷へ。コットンクラブを横目で見、寄らず、だんらんを横目で見たら、おやじさんに声を掛けられるも、寄らず、小料理千成へ寄って、ハタハタの煮付けをツマミに焼酎を4、5杯飲んでから、さてヨイショと席を立ち、今夜は階段は辛いから遠回りの坂道をえっちらおっちら歩いて上り、子守歌のピンク・フロイドも掛けずにすんなりダウン、というわけで濃いい一日、でも、二つも仕事が決まってよかったよかった。