だんらん

 休日、午後から出勤し仕掛かりの原稿の校正。例のごとく平日よりも仕事がはかどり頁が進む。右肩が痛くなってタイムリミット。
 桜木町駅、汁にこだわる川村屋で「500円ぽっきりセット」を頼む。要するに、天ぷらそば(orうどん)+おいなりさん2ケ。うどんにしてもらう。
 保土ヶ谷駅に着いて、真っ直ぐ帰るのもつまらないから、このあいだナベちゃんから教えてもらった「だんらん」に寄る。国道1号線沿い、保土ヶ谷駅と保土ヶ谷橋の中間にある。店に入るとプーンとシンナーの臭い。訊けば、壁を塗り替えたばかりなのだという。カウンターで若い男性が馬刺しをツマミにビールを飲んでいた。一つ空けて隣りの席に陣取り、ビールを頼む。ツマミは牡蠣フライ。
 ナベちゃんに連れられ初めて来た時、壁に、盲導犬育成のために何度も寄付金を送り、その都度盲導犬協会から送られたお礼の葉書と総額三十数万円になったことを報じる新聞の切り抜きが貼られていた。マスターにきっかけはと尋ねたら、テレビでニュースを見てとのこと、これなら自分もできる…。
 生ビールを空け、焼酎に切り替えて間もなく、高齢の小柄な女性が店に入ってきた。マスターの声の掛け方から判断して常連さんらしい。わたしのとなりに腰掛けた。
 酒が進むうちに口も滑らかになるのか問わず語りにいろいろ話をしてくれる。なんでも、川崎で店を出してから22年6ヶ月になるそうだ。土曜日の客が朝の5時までいて、それから店を閉め後片付けをして店で休み、これから家に帰るところだが、息子は出かけていてつまらぬから、ちょいと寄ったのさ。失礼ですけど、お住まいはこの辺ですか。御殿山。ああ、それで、お店に入ってきたとき、どこかでお目にかかったような、と思いました。わたしも御殿山です。あら、そうなの。よろしく。どうぞよろしく。
 興味尽きない話もさることながら、話に出てくる数字がきっかり、例えば22年6ヶ月というから、おや?と思って聞いていたが、これも問わず語りに言うことには、店を始めるまでは銀座の法律事務所に勤めていたとか。道理で。目がちらちらしだしたのをキッカケに転職。
 店を出るとき、またここで会いましょうと声を掛けられた。