見えないもの

 来年のNHK大河ドラマは『義経』。総指揮を執るのは黛りんたろうさん。小社から刊行予定の『大河ドラマ「義経」が出来るまで』の著者でもある。
 本のなかで、大河ドラマがどうやって出来てゆくのか、何を大事に演出しようとしているのか、ドラマづくりの秘密が明かされることになる。臨場感たっぷりの原稿が毎日のように寄せられているが、直近の原稿には、自害を決意した常盤の、死から生への転換の場面を、言葉でなくいかに表現するかの工夫が書かれており、その演出の妙に唸った。
 第1次のロケが終わり、今はスタジオ収録に入っていて、原稿から察するところ、息つく暇もない。その間隙を縫って、キラキラする原稿が届く。毎回ワクワクもので読んでいるが、改めて、黛さんの純粋さにハッとさせられる。どうにかしてこの世界、この美しさを演出するのだ、の気迫に満ちている。
 かつて三島由紀夫は、いまの時代、もはや英雄的な死などあり得ないと喝破したが、『義経』では、火花を散らして鬩めぎ合う生と死の狭間で浮かび上がってくるものが表現されることになるだろう。
 男の物語であり、女の物語である『義経』、役者はもちろん、黛さんはじめスタッフ一同の心意気が凄まじい。見えないものが人のこころを動かしている。原作は、宮尾登美子さん。