朽ちる

 自宅のベランダに、公園に捨ててあった鉄の屑篭と、道端に捨ててあった水道管を保護する鉄枠がある。どちらも汗をかきかき拾ってきたものだ。
 外気に晒しているため、時間とともにどんどん錆びつき、朽ち果て、昨日のように台風ともなれば、鉄屑がコンクリートの上にばらばら散りばめられ掃除が大変。無用といえば無用だが、空気に触れて朽ちていく感じが好きだし、この感覚がどこかにリンクしているように思うから置いている。
 たしか中学一年生の時、村中で大規模な田んぼの整備が行なわれ、何台ものブルドーザーが入って、土が根こそぎひっくり返された。その光景が巻貝の黒々の腹んなかみたいで面白く、絵に描いた。あの根こそぎ感、グロテスクでエロチック、内部が剥き出しになって外気に晒されプルプル震えている…。
 サザエやツブ貝を食って、とぐろを巻いている黒い腹に噛みつき、ジャリリと音がする度、ツーンとあの掘り返された土の懐かしい卑猥な臭いが鼻を突く。
 湿度の面ではまったく逆のオキーフの絵だが、ぼくの目は、共通する深度を見ているように思うのだ。
 後から考えれば、そうすると、ぼくは、何かを見ていると思っているけど、見ているものから見られていて、ぼくの中の何かを見せてくれるものを、ただ面白がっているだけかもしれない。
 何かに触れて朽ちる、は、安心を生む気がする。