マズっ

 イチローがとんでもない記録をつくって、なんだか気分爽快、スッキリしたので、いつもの床屋に行った。
 イチローをはじめ、中日ドラゴンズの優勝、日にちが重なっていたらイチローにスポーツ紙の第一面を食われていただろうこと、最近の日本プロ野球界の動向など、いわゆる床屋談義に興じているうちに、頭もさっぱりした。
 イチローで心が、床屋で頭が、さっぱりしたので、ラーメンを食うことにする。
 京浜急行井土ヶ谷駅近くの、これまで何度か行ったことのある店に歩いて行ったのだ。朝から何も食っていなかったから、少々腹が空き、キムチ味噌ラーメンと鮭ご飯を頼んだ。
 程なく頼んだものが出てきて箸をつけたら、ぶっ飛んだ。キムチが酸っぱくて食えねえ。まさか腐ってはないと思うが、こんなに酸っぱいキムチは初めてだ。アッタマにきたから、よっぽど店員を呼びつけて、おめえ、このキムチ食ってみろ、食えるもんなら食ってみやがれー!! と叫びたかったが、今日はそんなにテンションが高くないので、箸でキムチを丼の端に寄せ、食べるほうに来ないように注意しながら麺を啜った。でも、どうしてもキムチの酸っぱさをスープが引き寄せ、やっぱり酸っぱい。なので、今度は、まだ酸味に侵されていないであろう丼の底のほうから麺を掬い上げ、静かに食べた。二口ぐらいは普通の味だったが、やがて、どう足掻いても、もはや手遅れ。腐りかけのキムチに侵された味噌スープは泥水に酢をぶちまけたようなとんでもない液体に変貌。ぼくはすっかり意気消沈。イチローも中日もない。ははははははは… 情けなく、鮭ご飯を食べ、水で胃に流した。
 もう、セロニアス文句も言う気にならない。ははははは… セロニアス・モンクはジャズピアニスト、モンクと文句をかけたわけ。ははは… ダジャレです。むなしい。
 未練たらたら、ご馳走様でした、とだけ言って店を出た。